FACTORY – ある工場労働者の記録 –

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第一章:午後五時の鐘

午後5時の鐘が鳴り響く。工場のスピーカーから流れる金属的なチャイム音が、薄暗い空気の中に沈み込んでいく。リュウジは重い腰を上げ、手に付いた油をぼろぼろの布で拭った。18歳でここに来ると決め、希望にむせ返り働き始めた。それから3ヶ月が経つが、すでに希望は絶望に変わりつつある。

横須賀鉄鋼の煤と鉄の臭いを嗅ぐたびに、田舎に帰りたくなる。

「お疲れ」

アキラがタバコをくわえながら隣に立った。彼はこの工場で5年働いているベテランだが、すでに何も期待していないような顔をしている。

「今日はまだマシだったな。工場長の機嫌が悪くなかったからな」

リュウジは黙って頷いた。工場長の機嫌が悪いと、誰かが理不尽に怒鳴られる。殴られる。最悪の場合、突然クビになることもある。労働者にとっては、まるで戦場のような職場だった。

工場の敷地から出ると、外はすでに夕闇が広がっていた。工場周辺の木造長屋には、すすけた窓から暗い影が揺れていた。どこもかしこも貧しさに支配されていた。リュウジは故郷の緑豊かな景色を思い出したが、すぐにその記憶をかき消した。ここで生きていくしかないのだ。

第二章:横須賀鉄鋼の掟

「おい、新入り」

休憩時間の煙たい空間で、カズという男がリュウジに声をかけた。彼はこの工場で十年以上働いているベテランで、口数は少ないが、労働環境の闇を知り尽くしている。

「お前、この工場がどれだけヤバいか知ってるか?」

リュウジは戸惑いながらも、カズの話を聞いた。この工場では、過酷な長時間労働が常態化し、給料は雀の涙ほどしか支払われない。残業手当もない。怪我をしても自己責任とされ、まともな医療を受けることすら難しい。

「知ってるか?ドス黒い鞄を持った男が来たら、誰かが消えるんだ」

リュウジは眉をひそめた。「誰だよ、そいつ」

カズは煙草の煙を吐き出しながら言った。「本社の人間だ。ソイツが来る時は、決まって解雇通知が出る。クビを言い渡されると、次の日にはもう姿が見えなくなる。職を失った奴はどうなると思う?」

リュウジは想像したくなかった。家賃を払えず、行き場を失う。そうなれば、生きていく術は限られてくる。

「ユウコもそうなのか?」

カズは深く頷いた。「ああ、アイツもいなくなった。辞めたってことにされてるが、実際は……」

リュウジの背筋に寒気が走った。ユウコは、リュウジが最初に工場で仲良くなった女性だった。細い体つきで、それでも負けじと機械にしがみつきながら働いていた。彼女は夜な夜な「こんな生活がいつまで続くんだろう」と呟いていた。そして、ある日突然、彼女の姿は消えたのだ。

第三章:絶望と未来への嘆

「お前は、この国が変わると思うか?」

カズが唐突に呟いた。

「労働者が法で守られ、人間として扱われる世界が来るって、本気で思うか?」

リュウジは答えられなかった。彼らは毎日、12時間を超える労働を課され、まともな賃金すらもらえない。事故が起きても補償はなく、命を落とせば「自己責任」として片付けられる。この時代において、労働者はただの消耗品だった。

「俺たちが何を望もうが、資本家は変わらない。俺たちの首をすげ替えて、また次の奴を使い潰すだけだ。でも、それでも……」

カズはつばを飲み込んで静かに言った。

「こんな世界がいつか変わると、信じたいじゃないか……」

「こんな世界がいつか変わると、信じたいじゃないか……」

しかし、彼の声は虚しく響いた。目の前に広がるのは、変わらぬ工場の風景。今もどこかで、新しい労働者が、同じように夢を抱き、そして絶望しているのだ。

第四章:嵐の前触れ

いつもの繰り返しの筈だったある日の午後。ドス黒い鞄を持つ男が現れた。

門が静かに開き、工場に目を向けることなく、工場長のもとへ向かった。作業場の空気が一瞬にして張り詰める。

「また誰かが……」

誰かが小声で呟く。

男は鞄の中から一枚の紙を取り出し、工場長に渡した。工場長は無表情のままそれを受け取り、しばらく目を通す。紙にリストアップされた名前を工場長が読み上げる。

「……嘘だろ」

老人は「今日でこの工場ともお別れか…」とつぶやき、リュウジに泣きそうな笑顔を見せた。
リュウジは息を呑んだ。

その夜、工場の片隅でリュウジとカズは密かに言葉を交わした。

その夜、工場の片隅でリュウジとカズは密かに言葉を交わした。

「俺たちは……このまま、使い捨てられていくしかないのか?」

カズは黙ったままタバコを吸い、ゆっくりと煙を吐き出した。

「……ストライキを決行するしかない」

その言葉が、重く響いた。

リュウジは拳を握りしめた。危険な道であることはわかっていたが、もう後には引けなかった。

第五章:決起の日

朝の工場前に、労働者たちが集まっていた。カズを中心に、全員が沈黙のまま、機械の前に立つことを拒んでいた。

「もう俺たちは、黙って搾取されるつもりはない!」

カズの声が響いた。しかし、次の瞬間、工場の門が勢いよく開き、数人の警官隊が押し寄せてきた。

「解散しろ!違法集会だ!」

警棒が振り下ろされ、悲鳴があがる。リュウジも衝撃で地面に倒れ込んだ。

「俺たちはただ……まともに働きたいだけなのに……」

血の味が口の中に広がった。視界の端で、黒い鞄を持った男が工場長と握手するのが見えた。

「これが……俺たちの現実なのか……」

リュウジの意識が遠のいていく中、誰かの叫びが響いた。

「まだ終わっちゃいない……!」

第六章:圧倒的な力の差

1910年代の日本において、ストライキなどの労働争議に対して警察が介入することは一般的だった。特に、1910年に制定された治安警察法は、労働運動やストライキに対する規制を強化し、労働者の団結や争議行為を厳しく取り締まる法的枠組みを提供していた。この法律の下で、労働者の集会や結社の自由は制限され、ストライキが発生すると、警察が介入して解散を命じたり、参加者を逮捕することが行われていた。

こうした背景の中で、労働者たちはただ仕事を求めるだけでなく、自らの生活を守るために戦わざるを得なかった。リュウジもまた、その戦いの渦中にいる一人だった。

リュウジは薄暗い倉庫の中で目を覚ました。頭がずきずきと痛み、口の中にはまだ血の味が残っている。彼の周囲には、殴られ傷ついた仲間たちが横たわっていた。

「……無事か?」

カズが声をかける。リュウジはゆっくりと身を起こし、辺りを見回した。

「警察に捕まらなかったのか?」

「ああ、何人かは連れて行かれたが、俺たちは逃げ延びた」

カズの目にあった怒りと決意の炎は、消えてしまっていた。

第七章:抱えきれぬ闇の中

夜が更けても、倉庫の中には誰一人として眠れる者はいなかった。ストライキは失敗し、仲間たちは次々と捕まり、ある者は二度と姿を見せなかった。

リュウジは暗闇の中で膝を抱え、震えていた。彼の隣ではカズが口を閉ざしたまま、虚ろな目で天井を見つめていた。

「……俺たちの闘いは、何だったんだ?」

誰かが低く呟く。

「結局、俺たちは何も変えられなかったのか……?」

その言葉に、リュウジの胸が締め付けられる。確かに、彼らは立ち上がった。しかし、警察の暴力の前ではあまりにも無力だった。希望を抱いた者は捕らえられ、工場は以前と変わらぬまま、再び動き始めていた。

「未来なんて……あるのか?」

誰かのすすり泣く声が聞こえた。彼らはただ、人間としての扱いを求めただけだった。しかし、その願いは踏みにじられ、社会は彼らの存在すら認めようとはしなかった。

「俺たちは……何を諦めればいい?」

その問いかけに、誰も答えることはできなかった。ただ、重く冷たい沈黙が、その場にのしかかっていた。

第八章:あとがき 〜日本の労働環境の変遷〜

1910年代、日本の労働者たちは過酷な環境の中で搾取されていた。長時間労働、低賃金、劣悪な職場環境。労働組合を結成することすら許されず、ストライキを行えば警察の暴力にさらされる。

しかし、それでも労働者たちは諦めなかった。その後、日本は第二次世界大戦を経て、戦後の復興とともに労働運動が再び活発になった。終戦後、労働組合法が制定され、労働者はようやく団結し、権利を主張することが可能となった。

1950年代から60年代にかけての高度経済成長期には、日本の労働環境は大きく変化した。経済が成長するにつれ、企業は労働者の待遇を改善し、終身雇用制度や年功序列といった仕組みが生まれた。

しかし、すべてが理想的な方向へ進んだわけではない。高度経済成長の裏では、過労死やサービス残業といった新たな問題が生じた。栄養ドリンクのCMで「24時間、戦えますか?」というフレーズが使われるほど、労働者は過酷な労働を強いられていた。

それでも、大きな事件や事故が起きるたびに世間も注目し、労働基準法、労働安全衛生法など法改正が行われ、少しずつではあるが労働環境は改善の傾向にある。

現代においても、労働環境の問題は決して過去のものではない。しかし、かつての労働者たちの闘いがあったからこそ、現在の権利があることを忘れてはならない。

彼らの涙と血の上に、私たちの社会は築かれている。と言っても過言ではないだろう。

彼らを忘れてはならない。
Look at the sad people.

最後までお読みいただきありがとうございました!

「もしGLAY FACTORYの原作小説があったら」という観点でライトな物語を描いてみましたが、いかがでしたでしょうか?

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