GLAY HEAVY GAUGE 私の誕生日に発売されたアルバム

GLAYの曲を味わう

はじめに

1999年10月20日、GLAYのメジャー5作目のオリジナルアルバム『HEAVY GAUGE』がリリースされた。前作『pure soul』から1年3ヶ月ぶりとなるこのアルバムは、バンドの歴史において重要な転換点を示す作品として、今なお多くのファンの心に深く刻まれている。

そして10月20日は私の誕生日でもあり、思い出深いのである。

本作は、TAKUROが全曲の作詞・作曲を手がけた唯一のアルバムであり、彼の内面世界が色濃く反映された作品である。「前作『pure soul』では、いささかキレイなものばかり追い求めていた感があったが、次は、重い扉を開ける気持ちがあった」というTAKUROの言葉通り、このアルバムは光から影へ、普遍的な愛から社会への問いかけへと、GLAYの音楽性が大きく変化した瞬間を捉えている。

本記事では、リリースから26年を迎える『HEAVY GAUGE』について、その誕生背景から収録曲の詳細、制作秘話、そしてファンからの評価まで、徹底的に解説していく。

目次

  1. アルバムの概要
  2. リリース時のGLAYの状況
  3. 制作背景と音楽的コンセプト
  4. 収録曲徹底解説
  5. アルバムジャケットと仕掛け
  6. 商業的成功と評価
  7. ファンからの評価と遺産
  8. ライブでの演奏について
  9. HEAVY GAUGE Anthology
  10. まとめ

アルバムの概要

『HEAVY GAUGE』は、1999年10月20日にポニーキャニオンからリリースされた。全12曲、総再生時間65分15秒という大作であり、うち7曲にタイアップがついた商業的にも重要な作品である。

最大の特徴は、全曲TAKUROによる作詞・作曲という点だ。GLAYの全オリジナルアルバムの中で、これは本作だけである。編曲は全曲GLAY&佐久間正英が担当し、サポートドラマーには永井利光が参加している。

また、「BE WITH YOU」「Winter,again」「サバイバル」「ここではない、どこかへ」という大ヒットシングル4曲が、シングルバージョンとは異なるアルバムバージョンで収録されている点も注目すべき特徴である。これはバンドの明確な意思によるもので、TERUは「シングルを収めるからって、この1年の僕らはこんな感じに生きてましたって言う日記的なものにしたくなかった」と語っている。

レコーディングは、1999年7月31日に開催された伝説の「GLAY EXPO ’99 SURVIVAL」の前後で行われた。この20万人を動員した歴史的ライブの経験が、本作の制作に大きな影響を与えることとなる。

リリース時のGLAYの状況

1999年のGLAYは、日本の音楽シーンの頂点に君臨していた。前年1998年にはアルバム『pure soul』が242.7万枚を売り上げダブルミリオンを達成、シングル「誘惑」は162.6万枚、「HOWEVER」は134.2万枚を売り上げるなど、まさに黄金期の真っ只中にあった。

そして1999年7月31日、GLAYは結成10周年を記念して千葉・幕張メッセ駐車場特設ステージで「GLAY EXPO ’99 SURVIVAL」を開催。単独アーティストによる有料コンサートとしては世界最大級となる20万人を動員し、日本の音楽史に燦然と輝く記録を打ち立てた。費用は約30億円と言われるこの壮大なライブは、GLAYというバンドの絶頂期を象徴する出来事であった。

しかし、TERUは後にこう語っている。「『GLAY EXPO ’99 SURVIVAL』は、”幕張のSURVIVALライブ”より”20万人ライブ”ってのが大きく騒がれてしまい、数字じゃなくて俺たちはライブハウスでもう一度やれるバンドでありたいんだ、GLAYの初期衝動をもう一度確認するようなアルバムにしたい」。

まさに『HEAVY GAUGE』は、数字や華やかさではなく、音楽そのものと向き合おうとするバンドの真摯な姿勢が結実した作品なのである。

制作背景と音楽的コンセプト

光から影へ:音楽的転換

『HEAVY GAUGE』の制作コンセプトについて、メンバーそれぞれが印象的な言葉を残している。

TAKUROは「『pure soul』では、いささかキレイなものばかり追い求めていた感があったが、次は、重い扉を開ける気持ちがあった」と語り、本作をきっかけに「ある種の少年期が『pure soul』だったなら、殺人事件、国の色んな紛争などの外の問題を自身の問題として感じるようになった」と明かしている。

HISASHIは「今回のリアルさは、『pure soul』よりもうちょっとアンダーグラウンド的」「GLAYの本当にやりたいことを全く違う捉え方で見られるのも多かったし、皆の見えなかった所が相当あったから、音楽でGLAY本来の全表面を見せたかった」と語っている。

実は当初、本作はもっとヘビーで暗い作風になる予定だった。しかし、「GLAY EXPO ’99 SURVIVAL」でファンの笑顔を見た影響により、TAKUROが歌詞をもう少し優しく書き直した結果、JIROの言葉を借りれば「逆に随分ポップなアルバムになった」という。

全曲TAKURO作詞・作曲の意味

本作で特筆すべきは、全曲がTAKUROの作詞・作曲によるものであることだ。通常、HISASHIやJIROも楽曲を提供するGLAYにおいて、これは極めて異例である。

この背景には、TAKUROの強い想いがあった。20万人ライブという頂点を経験した後、彼は音楽家として、そして一人の人間として、改めて自分自身と向き合う必要性を感じていた。社会の矛盾、人間の孤独、王になることの代償──『HEAVY GAUGE』には、そうしたTAKUROの内面世界が赤裸々に刻まれている。

プロデューサー佐久間正英との関係

本作のプロデュースを手がけたのは、故・佐久間正英氏である。BOØWYのプロデューサーとしても知られる佐久間氏は、GLAYにとって音楽的な師であり、良き理解者であった。

佐久間氏の緻密なサウンドプロダクションと、メンバーの生々しい演奏が融合することで、『HEAVY GAUGE』は重厚でありながらポップ、ダークでありながら美しいという独特の質感を獲得している。

収録曲徹底解説

01. HEAVY GAUGE(6:51)

アルバムのオープニングを飾るタイトルトラック。ストリングスとギターのハウリングが交差するヘビーなミクスチャー・ロック・ナンバーだ。

当初は大人しい曲であったが、ドラムがメンバーの想像以上に激しかったため、レコーディング中に曲調が変わったという逸話がある。この曲の制作過程は1999年5月5日にNHKで放送されたGLAYの特集番組でも流れ、TERUが「母ちゃん、母ちゃ~ん、今年は行くよぉ~…」と仮歌詞でサビを歌っている映像が確認できる。

歌詞は非常に重く暗い。「愛を忘れたい」という冒頭の一節から、聴き手を一気にダークな世界へと引き込む。成功の代償、孤独、自己喪失──TAKUROの内面の叫びが凝縮された楽曲である。

PVは、1969年に閉山となった松尾鉱山にある旧緑ヶ丘アパート群という廃墟で撮影された。荒廃した風景の中で演奏するGLAYの姿は、まさに「重い扉を開ける」という本作のコンセプトを視覚化したものと言える。

02. FATSOUNDS(3:49)

普段のGLAYにはない、荒々しく世の中を皮肉った歌詞、重厚なサウンドと疾走感溢れるハイスピードな楽曲。聴いた誰もがスカッとする名曲である。

2019年のライブ『GLAY 25th Anniversary “LIVE DEMOCRACY”』2日目「悪いGLAY」では、なんと3連続で演奏され、ファンを熱狂させた。攻撃的でありながらキャッチーというGLAYの真骨頂が発揮された一曲だ。

03. SURVIVAL(4:22)

1999年にビデオ・シングルとしてリリースされた楽曲のアルバムバージョン。JIROがベースを録音し直したいと言い出したところ、「じゃあ全部録り直そう」ということになり、完全に再録音されたバージョンが収録された。

シングルバージョンに比べてシンセサイザー等の効果音が無くなり、よりシンプルで生々しいバンドサウンドに仕上がっている。HISASHIは「アルバムのトータルとか、今って空間を録音するって感じを出したかった」と語っている。

「GLAY EXPO ’99 SURVIVAL」のテーマソングでもあったこの曲は、20万人ライブの熱狂を今に伝える重要な楽曲である。

04. ここではない、どこかへ(5:47)

1999年発売の17thシングル。フジテレビドラマ『パーフェクトラブ!』主題歌に採用された。ミックスの異なるアルバムバージョンで収録されている。

閉塞感を抱えた現代人の心情を描いたこの曲は、多くのリスナーの共感を呼んだ。「ここではない、どこかへ」という普遍的なテーマは、時代を超えて響き続けている。

05. HAPPINESS(5:50)

女性のゴスペル風コーラスを用いた壮大なバラードナンバー。後にTBSドラマ『金曜日の恋人たちへ』主題歌となり、18thシングル「HAPPINESS -WINTER MIX-」としてリカットされた。

2000年のツアー以来全く演奏されていなかったが、2019年のツアーで約19年ぶりに演奏され、長年のファンを感動させた。

06. summer FM(5:10)

17thシングル「ここではない、どこかへ」のカップリング曲のアルバムバージョン。TERUのラジオが5年目に突入した記念にTAKUROが作った曲である。

歌詞の舞台は千葉市の稲毛海岸。そのため、千葉のbayfmにおいて毎年夏になると、よく流される楽曲となっている。次の楽曲「LEVEL DEVIL」とサウンド上で繋げられた仕上がりになっている。

07. LEVEL DEVIL(5:04)

「FATSOUNDS」同様、歌詞に遊び心が盛り込まれたアップ・テンポのナンバー。しかし「FATSOUNDS」とは異なり、ライブにおいて披露される機会は少ない隠れた名曲である。

タイトルは音の太さを変えるコンプレッサー(音響機器)の名前から取られている。

08. BE WITH YOU(5:09)

1998年発売の15thシングル。フジテレビドラマ『タブロイド』主題歌に採用され、大ヒットを記録した。リテイクされたアルバムバージョンで収録されている。

シングルバージョンとは異なる落ち着いたサウンドとなっており、コーラスも変更されている。佐久間正英氏のプロデュース力が如何なく発揮された仕上がりだ。

09. Winter,again(5:13)

1999年発売の16thシングル。GLAY史上最大のヒットを記録し、164.2万枚を売り上げた。

ボーカルが別テイクのアルバムバージョンであり、一部歌詞が変更されている。興味深いのは、TAKUROが「この曲は本アルバムには合わない」と語っていることだ。本来は別テイクを収録する予定ではなかったが、メンバーの知らない内に別テイクに差し替えられていたという。

このエピソードは、『HEAVY GAUGE』という作品の持つダークな世界観と、「Winter,again」の持つ純粋なポップさとの間にある緊張関係を物語っている。

10. Will Be King(7:28)

異なる2つの曲を1つの曲として合わせた楽曲。作者であるTAKURO自身も好んでいる曲である。

サビの英詞の部分は歌詞カードに表記されていないが、これはTAKUROの意図的なものだ。「HAPPINESS」同様、女性のゴスペル風コーラスが用いられ、壮大なスケール感を生み出している。

歌詞は、何を捨てても王になるというTAKUROの強い意志が伺える内容となっているが、そこには深い孤独が伴っている。成功の代償、栄光の裏にある孤独──『HEAVY GAUGE』というアルバムのテーマが最も凝縮された楽曲と言えるだろう。

明治製菓「フラン」CMソングにも起用された。

11. 生きがい(5:56)

後にベストアルバム『DRIVE-GLAY complete BEST』にも収録された重要曲。LUNA SEA及びX JAPANのギタリスト、SUGIZOをモチーフにしたと言われている。

当初はこの曲でアルバムのラストを飾る案もあったが、JIROの意見によりこの曲順となった。TDK「デジタルメディア」CMソングに起用されている。

12. Savile Row 〜サヴィル ロウ 3番地〜(4:36)

アルバムのラストを飾る楽曲。曲名にあるサヴィル ロウ3番地とは、ビートルズが最後のライヴコンサート『ルーフトップ・コンサート』を行った場所の住所である。

ビートルズへのオマージュという形で、GLAYというバンドの一つの時代の終わりと、新たな始まりを示唆する象徴的な楽曲となっている。佐久間英子がバックボーカルで参加しており、温かみのある仕上がりとなっている。

アルバムジャケットと仕掛け

『HEAVY GAUGE』のアルバムジャケットは、薄い黄色を基調としたシンプルなデザインだが、実はこれには驚くべき仕掛けがある。

ジャケットとディスクレーベルの薄い黄色は蓄光塗料によるもので、暗闇で光るのだ。昼に太陽を浴び、夜にぼーっと黄色い光を放つこのジャケットは、本作の持つ「光と影」というテーマを視覚的に表現している。

初回限定盤には帯部分に箱がついており、収録曲のタイトルが書かれた色違いのラバーバンドがランダムで3本封入されている(全12種類)。コレクター心をくすぐるこの仕掛けも、当時のファンを熱狂させた。

また、このアルバムはプロモーション用にアナログ盤も制作されており、こちらのジャケットも同じく蓄光仕様である。音楽だけでなく、パッケージングにもこだわり抜いた作品と言える。

商業的成功と評価

『HEAVY GAUGE』は商業的にも大成功を収めた。オリコンチャートで2週連続1位を獲得し、1999年11月度月間1位、1999年度年間8位にランクイン。最終的には235万枚を売り上げ、ダブルミリオンを達成した。

これは前作『pure soul』に次いでGLAYのオリジナルアルバムの中で2番目の売り上げ記録であり、オリコン歴代アルバムランキングでは52位にランクインしている。

当時TAKUROも「90年代後半にしてGLAYの最高傑作」と発言しており、バンド自身もこのアルバムに強い自信を持っていたことが伺える。

ファンからの評価と遺産

『HEAVY GAUGE』に対するファンからの評価は、リリース当初から現在に至るまで賛否両論がある。それこそが、この作品の持つ強烈な個性を物語っている。

肯定的な評価としては、「GLAYの音楽性の幅を示した名盤」「重厚でダークな世界観が魅力的」「TAKUROの作詞・作曲能力の高さを証明した作品」といった声が多い。特に、「FATSOUNDS」「HEAVY GAUGE」「Will Be King」といった楽曲は、コアなファンから高い支持を得ている。

一方で、否定的な意見としては、「全体的に重苦しい世界観が漂っており、前作のポップロックさのあるGLAYを聴きたい人には合わない」「暗すぎる」といった声もある。実際、初めて聴いたときに「ちょっと怖かった」という感想を持つファンも少なくない。

しかし、時を経るごとに『HEAVY GAUGE』の評価は高まっている。当時は重すぎると感じられた歌詞やサウンドが、人生経験を積んだファンには深く響くようになり、「今だからこそ理解できる」「年齢を重ねて聴くと違った感動がある」という声が多く聞かれる。

『HEAVY GAUGE』は、単なるヒット作を超えて、GLAYというバンドの成熟と転換を示す重要な作品として、日本のロック史に刻まれている。

ライブでの演奏について

『HEAVY GAUGE』収録曲は、リリース後のツアーで多数演奏された。特に1999年から2000年にかけての「GLAY ARENA TOUR 2000 “HEAVY GAUGE”」では、アルバムの世界観を再現した重厚なステージングが展開された。

頻繁に演奏される楽曲

  • 「SURVIVAL」:ライブの定番曲として現在も演奏される
  • 「FATSOUNDS」:特に2019年の「悪いGLAY」で3連続演奏され話題に
  • 「HEAVY GAUGE」:重厚なオープニングとして使用されることが多い
  • 「BE WITH YOU」:バラードパートの定番曲

あまり演奏されない楽曲

  • 「LEVEL DEVIL」:レアトラックとして知られる
  • 「HAPPINESS」:2000年以降長らく演奏されなかったが、2019年に約19年ぶりに復活

興味深いのは、「Winter,again」がアルバムバージョンではなく、主にシングルバージョンで演奏されることだ。これはTAKUROが「この曲は本アルバムには合わない」と語っていたことと符合している。

ライブでのpure soul演奏時には、特に大サビの部分で、多くのファンが感動で涙する光景が見られる。ライブレポートやファンの証言によると、この曲は特に感情移入しやすく、ライブの感動的な瞬間を作り出す曲として定評がある。

HEAVY GAUGE Anthology

2019年5月8日、『HEAVY GAUGE』発売から20年を迎えたことを記念して、『HEAVY GAUGE Anthology』がリリースされた。

このアンソロジー版は2CD+1Blu-rayの3枚組とブックレット付で、以下の内容が収録されている:

DISC1:『HEAVY GAUGE』収録の12曲と、シングル「BE WITH YOU」「Winter,again」のカップリング曲4曲を、マイケル・ツィマリングによりベルリンでリミックス・リマスターした音源。

DISC2:2019年にメンバー自身が新たにリミックスした「HEAVY GAUGE GLAY Ver.」を収録。

Blu-ray:当時のアウトテイクを使用したアウトテイクミックスや、「HEAVY GAUGE CM」などの映像資料を収録。

このアンソロジー版により、『HEAVY GAUGE』は新たな世代のファンにも届けられ、作品の持つ普遍的な価値が再確認された。

まとめ

『HEAVY GAUGE』は、GLAYというバンドの歴史において、最も重要な転換点の一つを記録した作品である。

前作『pure soul』で追い求めた「キレイなもの」から、「重い扉を開ける」ことへ──TAKUROの言葉に象徴されるように、本作はGLAYの音楽性が光から影へ、普遍的な愛から社会への問いかけへと深化した瞬間を捉えている。

全曲TAKUROによる作詞・作曲という構成、シングル曲を敢えてリテイクしてアルバムバージョンで収録するという判断、重厚でダークなサウンドプロダクション──すべてが、バンドの強い意思と芸術的野心を示している。

235万枚を売り上げダブルミリオンを達成しながらも、決して媚びることなく自分たちの表現したい世界を追求した『HEAVY GAUGE』。その姿勢こそが、GLAYが単なる人気バンドではなく、真のアーティストであることを証明している。

リリースから26年を経た今、『HEAVY GAUGE』は色褪せることなく、むしろ時を経るごとに深みを増している。当時は重すぎると感じられた歌詞やサウンドが、人生経験を積んだファンには深く響く──まさに時限爆弾のようなアルバムなのだ。

もし昔聴いていたが最近ご無沙汰だという方がいれば、ぜひ今日という特別な日に、改めて『HEAVY GAUGE』を手に取ってみてほしい。暗闇で光るジャケットを眺めながら、26年前のGLAYが開けた「重い扉」の向こう側に、あなた自身の人生の光と影を見出すことができるだろう。

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