GLAYの歌詞にはよく出てくるのに、ふだんの会話では使わない言葉。気になったことはありませんか。
「どうしてこの言葉は、GLAYっぽく聞こえるんだろう?」
日常会話や書き言葉と、どこがどう違うのか。気になって調べてみたところ、興味深い発見がいくつもありました。

ただ、これは簡単ではありませんでした。GLAYっぽさは感覚の話で、数字にはならないと思っていたからです。転機は、好きでよく見ているYouTubeのゆる言語学ラジオでした。日本語の使われ方を大量に集めたデータ、コーパスというものがあると知り、前回数えたGLAYの歌詞と突き合わせれば見えるのではないかと考えたのが、今回の分析です。どう調べたかを示さないと意味のない話なので、方法から書きます。細かい部分は読み飛ばしてもらって構いません。
ゆる言語学ラジオゆるく楽しく言語の話をするラジオ。「言語学の二歩くらい手前の知識が身につくラジオ」を目指しています。youtube.com
第1章:まず物差しをそろえる。ふだんの日本語と、どう比べたか
ふだんの日本語の物差しは、二つ用意しました。
- 書き言葉:本、雑誌、新聞、ブログなどの文章を約1億語集めたデータ(『現代日本語書き言葉均衡コーパス』)。
- 日常会話:家庭や職場でのふだんの会話を200時間録音して、文字に起こしたデータ(『日本語日常会話コーパス』)。約240万語。
どちらも、どの言葉が何回出てきたかの一覧が、国立国語研究所のサイトでインターネットに公開されています(書き言葉の語彙表、日常会話の語彙表)。これをGLAYの歌詞(前回と同じ、2024年10月までのデータ)と並べます。
比べ方はシンプルです。ある言葉がふだんの日本語と同じ割合ならGLAYの何曲に入るはずかを出し、実際の曲数がその何倍かを "倍率" と呼びます。倍率が大きいほど、GLAYの歌詞に偏って出る言葉です。
数えるのは前回と同じで、その言葉が入っている曲の数だけ。1曲の中で何回出てきても1曲です。
難しいことは置いておいて、実際のデータを見たほうが早いと思います。基準はどちらの表も書き言葉です。まず、ふだんの日本語ではよく出るのに、歌詞にはほとんど出ない言葉。
| 言葉 | 書き言葉100万語に | 同じ割合なら | 実際 | 倍率 |
|---|---|---|---|---|
| 食べる | 796回 | 約20曲 | 1曲 | 0.05倍 |
| 美味しい | 295回 | 約8曲 | 2曲 | 0.26倍 |
| 先生 | 656回 | 約17曲 | 1曲 | 0.06倍 |
逆に、ふだんの日本語では珍しいのに、GLAYの歌詞には出てくる言葉。
| 言葉 | 書き言葉100万語に | 同じ割合なら | 実際 | 倍率 |
|---|---|---|---|---|
| 高鳴り | 0.61回 | 約0.02曲 | 4曲 | 246倍 |
| 生き急ぐ | 0.63回 | 約0.02曲 | 4曲 | 237倍 |
| 滔々 | 2回 | 約0.04曲 | 1曲 | 23倍 |
| 履き古し | 0.02回 | 約0.001曲 | 1曲 | 1,000倍 |
食べるは、同じ割合なら約20曲に入るはずが、実際は1曲。履き古しは、同じ割合なら全曲を合わせても0.001曲分にもならないのに、1曲にあります。一般の日本語での使われ方との、この乖離を、倍率という形で表しています。
ここでクイズです。食べるが出てくるたった1曲は、どれでしょう。
- FRIEDCHICKEN & BEER(1998)
- ストロベリーシェイク(1998)
- mister popcorn(2001)
- FRIED GREEN TOMATOES(2021)
正解は……この中にありません。道産子シーサー(2003)の「食べるソーキ味噌ラーメン」でした。フライドチキンもビールもポップコーンもトマトも題名になっているのに、歌詞の中で食べているのはソーキ味噌ラーメンだけです。FRIED GREEN TOMATOESには「僕は喰らう」があるので、トマトはたぶん喰らっています。
第2章:会話ではめったに言わないのに、GLAYではよく出る言葉
まず全体図です。点はGLAYの歌詞に出る言葉で、横は日常会話200時間での出現回数、縦はGLAYの何曲に出るかです。会話の一覧に見当たらない言葉は左端にまとめています。
右下の食べる、美味しい、先生は、会話ではよく使うのに歌詞にはほとんど出ない言葉です。
横軸を書き言葉にした図も置きます。会話と書き言葉で位置が動く語があります。
会話では少ないのにGLAYで多い語に絞ると、会話200時間で3回以下かつGLAYで10曲以上の語は37語ありました。

たとえば悲しみ51曲、瞳47曲、闇39曲は、会話では1〜2回です。愛しい26曲、温もり21曲、照らす20曲、頬18曲、ため息16曲は会話の一覧に見当たりません(頬は、ほっぺ、ほっぺたの形なら少しあります)。
今夜、不意、告げる、訪れると、読みや表記で数がずれる口唇、描くは外しています。
温もりと愛しいは、デビュー期から最近まで見られます。
- ツメの先から君の温もりが消えるFreeze My Love1995
- あなたの温もり求めない日はないALL STANDARD IS YOU2001
- 愛しさの意味を知るHOWEVER1997
- 誰も独りでは生きられぬ弱さが愛しくてBE WITH YOU1998
- 時は過ぎゆく…その速さ この頃愛しくてBible2012
会話では少ない言葉が、GLAYでは多くの曲に出ます。歌詞が、ふだん口にしにくい言葉の置き場になっているようです。
第3章:倍率がとくに大きい言葉は、動詞を重ねている
次は倍率そのものが大きい語です。3曲以上に出る語から、書き言葉比の倍率上位8語を見ます。

1位は高鳴りで246倍です。ふだんの日本語の割合ではほぼ出ない語が、4曲に見られます。
上位語には、動詞を重ねた形が目立ちます。生き急ぐ、去り行く、泣き濡れる、変わりゆく、許し合えるで、8語中5語です。ひとつの動きに、もうひとつの動きを重ねる。この選び方は、GLAYの歌詞の癖のひとつだと思います。
- 臆病な胸の高鳴りを伝えられずBE WITH YOU1998
- 生き急ぐ事で、分かり合える軌跡の果て1996
- 去り行くあなたでしたWay of Difference2002
- 泣き濡れた夜もあったなpure soul1998
- 変わりゆく他人(ひと)を遠くに見てはここではない、どこかへ1999
- 互いに心許し合えたHAPPINESS1999
第4章:1曲にしか出てこない、珍しい言葉
1曲か2曲だけの語は、日本語全体での珍しさが倍率に強く出ます。ここでは順位を付けず、印象的だった語を並べます。
滔々、履き古しは第1章のとおりで、客電も書き言葉では多くありません。こうした語がシングル曲に置かれているのも、GLAYの歌詞の魅力です。
第5章:脱線。会話では好きと言い、GLAYは愛と歌う
日常会話側も見ます。200時間で多い動詞は、言う28,447回、思う9,740回、分かる6,041回、食べる3,831回。雑談そのものです。
気持ちの語はどうか。好きは1,242回、大好きも171回あります。いっぽう愛は、愛する、愛情を足しても39回、恋は20回。会話では好きが中心です。
好き、愛、恋の3語の割合を、日常会話、書き言葉、GLAYの歌詞で並べたのが次の図です。

左から右へ、青の好きが減って赤の愛が増えます。会話では気持ちを言うときの96%が好きで、愛はほとんど出てきません。書き言葉では愛が3分の1、GLAYの歌詞では愛が半分を超え、好きは1割です。ふだん好きと言っているところを、GLAYは愛と歌っている。
GLAYで好きのある曲は26曲。そのうち10曲は「好きだった」と過去形で、終わったあとから振り返る場面に出てきます。
- 「ずっと好きだった」HELLO MY LIFE1999
- 見守る君をずっと好きだったとまどい2000
- 2人はこの場所がとても好きだったからつづれ織り2005
- 「今でも好き?」と問われても青春は残酷だ2021
愛のある曲は168曲。出方を挙げます。
- 静かな愛の中 心からそう思うよずっと2人で…1995
- 泡沫(うたかた)の恋を愛だと呼んだBELOVED1996
- 絶え間なく注ぐ愛の名を 永遠と呼ぶ事ができたならHOWEVER1997
- 愛は愛のままじゃいられず いつか形を変えるpure soul1998
会話で好きと言うところを、GLAYは愛と書く。BELOVEDの「恋を愛だと呼んだ」は、その言い換えをそのまま歌っています。会話と歌詞とで、気持ちを載せる言葉が入れ替わっている。第5章でいちばん見てほしいのはここです。
会話の一覧には回数しか無く、前後の文脈は入っていません。会話の好きが人に向けたものか、食べ物や趣味の話かは、この数字からは分かりません。
第6章:この比べ方で言えないこと
この比べ方の注意点です。
- 比べた相手は本や会話で、ほかのアーティストの歌詞ではありません。ここで見えた傾向は、GLAY固有ではなく歌詞全体の特徴の可能性があります。
- 書き言葉は主に1976〜2005年、日常会話は2016〜2020年で、GLAYの歌詞と時期がずれています。
- 見る、行く、来るのように補助的な語と同じ分類になる語と、英語の語は数えていません。
おわりに
温もり、愛しい、儚いは、会話より歌詞で目立つ語でした。歌詞は、日常では出にくい言葉を置ける場なのだと感じます。
今回使ったコーパスは、国立国語研究所が誰でも使える形で公開しているものです。少しでも興味が湧いたら、ぜひ触ってみてください。少納言というサイトで、書き言葉1億語の中から言葉を検索できます(登録不要、無料)。コーパスとは何かは、ゆる言語学ラジオのコーパス回が入口としていちばん分かりやすいと思います。書き言葉コーパスの設計に携わった丸山岳彦先生が出演しています。
この言葉も日常では使わないよね、この珍しい言葉はあの曲にもある、といった気づきがあれば、ぜひXで教えてください。
比べる相手にしたふだんの日本語のデータは、国立国語研究所の『現代日本語書き言葉均衡コーパス』短単位語彙表と、『日本語日常会話コーパス』短単位語彙表です。 どちらも国立国語研究所が研究・教育目的で公開している語彙表(頻度リスト)で、本記事はその集計値だけを使い、コーパスの本文は掲載していません。参照文献:小磯花絵ほか(2022)「『日本語日常会話コーパス』の設計と特徴」言語処理学会第28回年次大会発表論文集/Maekawa, K. et al. (2014). Balanced corpus of contemporary written Japanese. Language Resources and Evaluation, 48(2).